・演技について→3、声→声を出す準備をしよう。

さて稽古を始めるぞお、と考えて、さて一体何からやるべえということになったら、まずはどの劇団でも発声ということになるでしょう。
しかしその内容は様々で、とんでもないところになると突然「さあ発声だ!」「はい!」「ア、エ、イ、ウ、エ、オ、ア、オ!」という感じでやらかしてしまいます。


何が「やらかしてしまっている」のかというと、その行為が新品で買った原付でいきなり70kmオーバー出して突っ走るのと同じくらい無謀だからです。たとえが解りにくくてすいません。
とにかく、無茶ってことです。

泳ぐ前には準備運動が必要です。しかし、水泳の準備運動で突然全力疾走したらどう思います? 「あほかこいつ」ですね。
なのに稽古前の準備運動で突然全力発声する人が実際いたりするのです。


徐々に、少しずつ声を出せる状態に自分を持っていきましょう。
少しずつで構いません。下に、具体的な手順の例を挙げます。かつて私の劇団で実際にやっていたメニューです。


・リラックス
・腹式呼吸
・S音
・Z音
・長音
・短音
・言葉


さて、説明していきます。
まずリラックスです。身体が緊張していたら声は出ません。
面接などで緊張して、思うように喋れなかった経験はありませんか? あれと同じです。

できるだけリラックスしてから始めましょう。
手順としては、まず軽く肩や首などの関節をほぐし、仰向けに寝転がって下さい。
普通に寝転がると腰のあたりが浮き上がって負担がかかるので、膝を曲げて足の裏を地面に付けてみて下さい。楽になるはずです。
顎が上を向いてしまう人は、タオルか何かを枕代わりにしましょう。
それで安定した状態の完成です。

この状態で、まずは呼吸です。
なるべく息を深くするために腹式呼吸がいいでしょう。

腹式呼吸とは、横隔膜を下げることによって息を吸ったときに腹が膨らむ呼吸法のことです。
こちらのほうが胸式呼吸よりも深く息が吸えますし、吸ったときに肩が動かないので見た目にも良いです。

ゆっくり吸って、なるべくゆっくり吐いて下さい。
よく、一瞬で吐いてしまう人がいますが身体に緊張が走るので止めましょう。
あくまでリラックスです。ゆっくり吸って、ゆっくり吐く。それを数分繰り返して下さい。




段々、気持ちよくなってきます。
リラックスできたなーと思ったら次はS音です。

「すー」という音を口から出すのですが「す」と発声してはいけません。
無声音の「S」を出します。「〜です」の「す」です。「su」ではなく「s」の音しか出ていないのが解るでしょう。

空気を吸って、ゆっくり「S」を出して下さい。空気を出し切ったらまた吸って繰り返します。




また数分繰り返したら、今度はZ音です。
有声音の「Z」です。S音に振動を混ぜるとZになります。
これも同じく数分。




そこまでやったらようやく声を出します。
喉を痛めないように、身体に緊張が走らないように徐々に、徐々に。
私は個人的にハミングから始めます。が、手順がかなり長くなるので今回は省きます。

ゆっくり、かすかに「アー」と出しましょう。
短い音はまだ出さないように。緊張しやすくなります。


慣れてきたら段々大きく。強弱等をつけて発声を楽しんで下さい。
もちろんずっと呼吸は複式です。リラックスしたままで。




最後に短音です。
短く「ア」と繰り返します。最後勢いよく切って「アッ」としてはいけません。たちまち身体がこわばります。
音を身体全体に響かせるイメージです。緊張していたらどこにも響きません。




一通りこなしたら(ここまでで本当は三十分とか一時間かけるべきなのですが、都合があるでしょうから最低十分くらいはやって下さい)、実際に言葉を喋ってみましょう。早口言葉などでいいです。

終わったら起きあがりますが、腹筋に力を込めて起きあがるのはNGです。
ごろっと仰向けからゆっくりうつぶせになって、そこから下半身を起こし、上半身を起こすという手順を行って下さい。とにかく緊張は敵です。リラックスを心がけて下さい。


大体十数分、アップの時間を取ったら士気を上げるために全体発声を行ってもいいです。
いいですが、本来発声とは自分の身体と相談して調整するものなのでくれぐれも緊張しないように。

とはいえ適度な緊張感は必要です。
だらけるのとリラックスは違います。


私の劇団では、テンション上げを兼ねて軽く全体発声をしていました。
そんな感じで、声を出せるコンディションに自分を持っていって下さい。