・演技について→3、声→声の重要度。

「あの人は演技がうまい」

という言葉を多くの人に向けられる役者は、大抵声の演技に長けています。
というか多くの人は無意識にその人の「声の演技」を見て上手いと評価しています。

もちろん演技とは総合的なもので、上手い人は総合的に上手いのですが、声に迫真性があったり、声に上手く感情を乗せられる人は「上手い」と評されることが多いです。
と、いうのは、声の演技が一番「解りやすい」からです。感情が乗っているか乗っていないか判断するのが一般の人にも容易なのです。


それは普段、私たちが日常で主に声を媒介に感情のやり取りをしているということを表します。
例えば「不機嫌」という気持ちを伝えるときに「ふざけんなよ」と声で伝えれば確実に伝わりますが目や表情、もしくは全身で伝えようとすると伝わる確率は下がります。
正確に言うと、伝えることは可能なのですが相互に共通認識を持つのが難しいのです。

女が「好き」という気持ちを片思いの男に伝えたいとします。
「好き」と棒読みでも言えばとりあえず男は「ああ、この女は俺が好きなんだな」と思います。意味が伝わります。
「好き」と緊張しながらも勇気を振り絞った声で言えば男は一段階深く「ああ、好かれているのか」と理解します。
しかし態度で「好き」を伝えることは難しいのです。甘えたりすれば男はもしかしたら「俺のことが好きなのか?」と思うかもしれませんが、思うだけです。「ああ、好かれているんだ」と確信には結びつきません。結びつくのは、自意識過剰な男か、経験豊富な男だけです。

伝わるけれど共通認識を持つのが難しい、というのはそういうことです。
言葉は意味を持っていますので確実に伝わります。「上手い、下手」の判断が容易なのです。




というわけで、声の演技はまず押さえねばならない第一の要素です。
ただし念のため、声に頼りすぎるのもよくないんだよなあ、ということも言っておきます。