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・演技について→1、演技について・はじめに→演技とは、今の自分を知ることから始まる。
演技を始めるとき、一番最初にやるべきなのはイメージすることだと書きました。
イメージすることによってそのイメージに沿った役者になれるのだということですが、ここではもう少し具体的なイメージ方法を書きます。
よく漫画などで、おしゃれをする不細工な女性が、自分のことを美人だと思っているというようなギャグがありますね。ブ男が自分をかっこいいと思って鏡の前でポーズを取ってるのでもいいです。
あれはどう説明するんだ、イメージが事実と違うじゃないかと言われそうですが、そういうのはそもそもイメージの仕方が間違っています。
イメージするときの注意事項ですが、起点に今の自分を置かねば意味がありません。
ひょろひょろの人間が鉄アレイ運動をしていて、自分はムキムキだと思っているならそれはただの勘違いです。
ひょろひょろの人間が自分はひょろひょろだと自覚していて、その上でこんな感じのムキムキ兄ちゃんになりたいなと思っているなら、それがイメージです。
今の自分を把握する。そして目標(イメージ)を設定する。そうなるにはどうすればいいかを考え、一歩ずつ努力する。
それが正しいイメージの方法です。把握、イメージ、努力の一つでも欠ければ結果は出ません。
で、一番大事なのは最初の「把握」だったりします。
そこで、演技をするには自分というものを俯瞰的に見つめ直さねばならなくなるのですが、これが人によっては大変です。
なにせ外見も中身も全て客観的に見つめ直すのです。普段そういうことをしない人にとっては、もしかしたらアイデンティティーなんてものまで変えてしまうくらいのことかもしれません。
自分をありのままに認めるのはとても難しいことですが、そのとき「できなくてもいいんだ」と考えることが大切です。
「今はできなくてもいい。これからイメージして、できるようになるんだから」と考えられる心の余裕が必要です。「今できていない」ことを認められない人は上達しません。結果最初の「把握」でつまづき、冒頭の例のような男女が誕生するのです。
プロを目指すのでなければ、大抵の人は役者になれます。
ある程度のレベルまでは努力でなんとかなるものです。ただし最初の「把握」でつまづくとそこから前に進みません。
だから言い換えると、最初にせねばならないのは「今の自分ができていないことを認める」ことです。
そんで、それを恥ずかしいことなどと思わないこと。できなくて当たり前、できて凄いじゃんくらいの気持ちでいればいいのです。
高度経済成長期を知らず、近代合理的な偏差値制度の中で育った私の世代なんかは、できないことにコンプレックスを感じる人が多いです。赤点取ったら次は五十点、五十点なら次は八十点、八十点なら次は九十五点、九十五点なら次は百点、百点なら次も百点、と……「できるのが当然」という仕組みの中で永劫に「先」を求められてきたのです。
今できないことに落ち込む必要はありません。
できない、よりやらない、のほうが余程問題です。
今できなくてもいい。今できないからこそイメージを持って努力する。
最近どうだか知りませんが、私のときは受験期にこぞって「全然勉強してないよ」と言いながら、みんな目の下にクマをこさえたもんです。「最初からできるんだよ」というのがステータスで、努力はできない人間の象徴でした。
私はそれを聞いて「やべえっ、俺は自分で結構勉強してるつもりなのにあいつらよりできてねえ!」と焦ったものです。考えてみたら「全然勉強なんかしてないよ」って言葉を吐くこと自体勉強に対する意識が高いことを物語っているのに、正直に信じた私はウブでした。
まあだからと言って「どうせできないんだ」と自分を卑下するのも過小評価するのも駄目ですが。
とにかく、できないことを認めるところから演技は始まるのです。 |
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