・演技について→1、演技について・はじめに→まず必要があって、そこから技術。

演技の上手い・下手を論ずるときに、無視できないのが「技術」の問題です。

解りやすい例にすり替えると、歌と全く同じことが言えます。
カラオケなどに行くと「あの人は上手いけど上手いだけだ」と言われる人や「あの人上手くはないけどいいよね」と言われる人がいます。

かつて私の周りにも歌の上手い男が何人かいました。音程は取れているしどんな歌でもそつなく唄ってみせるのです。
が、ずっと聞いていたいとは全く思わない歌でした。他の人も同じことを思っていたみたいで、彼らは「上手いけど、上手いけどさぁ……」と女性たちに裏で言われていました。


技術は重要です。
「下手でも気持ちが伝わればいい」なんて言葉がありますけど、普通は下手だと伝わらないから問題なのです。
「歌はハートだよ」というのはそのとおりだと思いますが、だからこそハートを伝えるための技術が必要です。




演技も同じです。が、上手いだけではやはり駄目です。
では「上手いけど、上手いけどさぁ」と言われないためにはどうすれば良いのでしょう。

まず「上手いけど……」と言われてしまう人がどういう人か考えてみましょう。
何年か前、知り合いにそこそこの演技力を持った役者がいました。彼は声もよく通ったし身体もよく動きました。しかし私から見て、全く魅力のない役者でした。無難に演技できますが、全く面白くなかったのです。
ただまあ端から見て判断するのもあれだからと一度試しに使ってみて、やっぱり「駄目だ」と思いました。

それは、技術先行の演技をしていたからです。
確か彼自身が技術至上的な発言をしていましたが、本当に「技術しかない」演技でした。
そしてだからこそ、その技術を鼻にかけていたのです。それが演技に表れていました(と言っても、当時の私から見てもさほど凄い技術力を持っていたわけではないのですが)。




私が初心者に演技を教えるとき、技術のことは後回しにします。
下手すると発声も後回しです(それはさすがにどうなんだ、と言われてしまいましたが)。

ただ、何でもそうですが技術は後からついてきます。後で身につけることも可能です。
しかし、最初に「演技は技術だ」ということを植え付けられると、技術以外のものを中心に持ってきた演技ができなくなります。

それは、勉強のための勉強に慣れた学生が、知的好奇心を満たす勉強をできなくなるのと同じです。
「どうして勉強をするのか」という疑問を持たないまま勉強をすると、身につけた知識を日常生活に全く生かせません。
それと同じで、技術先行の演技をするとその技術を生かし切れないのです。


ではどうするか。
簡単です。必要になったら技術をつければいい。

ここで話は何故か突然セックスの話になるのですが、セックスも技術先行でやってはいけません。
まず「セックスしたい」「愛したい」という気持ちがあって、「相手に気持ちよくなってほしい」という思いから「気持ちよくさせるための技術」が必要になって、身につけるのが良いのです。

技術先行のセックスをすると論点が「身体が快感を感じているか」になりがちで、とても空しいのです。きっとさっき例に出した役者の男性はセックスの途中何度も女性に「気持ちいい?」と聞くタイプです。あんまりしつこいと、気持ちよくなきゃいけないのかよと言いたくなります。


同じように技術先行の演技は「俺、うまいだろ?」と言っているように見えるのです。歌も同じです。
まず技術を身につけて、それから色んな演技をするのではありません。色んな演技をしていくうちに、「この技術がないと今回の役は演じられない」となったら身につければ良いのです。


だから私は、上手い役者とは技術のある役者ではなくて技術の使いどころを知っている役者だと思います。
表現したいことがあって、技術不足で表現しきれなくて……その悔しさから身につけた技術は、あなたを何倍も輝かせてくれると断言できます。

月並みな言い方ですが演技はハートです。
スポーツも歌もセックスもハートです。

そしてハートを活かすために技術があります。
ハートをおごらせるような技術はないほうがいいのです。




じゃあ技術って具体的になんなの? という疑問には後で詳しく答えていきます。