・芝居全体について→1、芝居を始めるにあたって→そもそも「芝居」って何よ?

芝居は人生最高の遊びだ、と誰かが言っているのを聞いたことがあります。

生きている限り、人は自分の人生を生きるしかありません。
いくら大変でも、嫌になっても、生きている以上は自分をやめることはできません。

ですが、舞台の上では、役者は他の人間になることができます。
日常のしがらみを全て越えたところで、泣き、笑い、怒り、叫び……全力の感情解放が許されます。

たとえ一時だとしても、本当の別人になることができないとしても、確かにその時間、役者は「他人のふり」をするわけです。観客のためでもなく、共演者のためでもない。ただひたすら自分のために、他人のふりをし続けるのです。
妙な言い方をすれば、見ている者全てを「俺は今俺じゃないよ。違う人間だよ」と騙すわけです。
ある意味これはもの凄く馬鹿らしいことで、もの凄く面白いことだと思います。
芝居が人生最高の遊び、というのも決して言い過ぎではないかもしれません。


役者のことを引き合いに出しましたが、スタッフにも同じことが言えます。
この世界はこの世界でしかないのに、一時、ある場所に、この世界以外の偽世界を作り出します。その構築に大人も子どもも関係なく、全力を尽くすのです。

舞台美術は舞台上にもう一つの世界を作り上げ、照明はその舞台をより別世界へと転じさせ、音響、小道具といったスタッフがさらにそれを深めます。衣装やメイクは役者をより別世界の人間へ見せ、舞台監督はその作られた世界の全てを監督する、いわば神です。

冷めた客観的な目で見れば、一体何をやっているんだというくらい馬鹿馬鹿しいことかもしれません。
けれど、だからこそ楽しい。


この役者スタッフが一丸となって、現実世界に別世界を作り出そうとする行為。
この呆れるほど膨大な労力を費やす遊びこそ、芝居です。